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2005年9月10日 (土)

竜笛

010_2ryuteki(写真は、風俗博物館実物大展示室に備え付けられている竜笛)
雅楽の唐楽や催馬楽で使用する中国伝来の笛。
雅楽では「横笛(おうてき)」とも呼び、古典文学では主に「横笛(よこぶえ)」または単に「笛」と呼ばれます。
竹製で、長さ約40cm。太さは頭部の方がやや太く、尾端で約1.2cm。
表皮を剥ぎ取って形をつくり、歌口(吹き口)と7個の指孔の計8個の穴を一直線上に空け、頭の一部と穴の部分を除く全体を、桜の樹皮を細く切ってつないだ糸状のもので巻いて漆を塗ります。
頭部には、重心を調整するために鉛の棒を詰め、赤地錦で包んだ木栓を端に埋め込みます。

演奏は、歌口が左にくる向きに構え、上の3孔を左手の人差し指~薬指、下の4孔を右手の親指以外の4本の指で押さえます。
唐楽において最もよく使用される楽器で、普通の唐楽曲の合奏は竜笛の独奏で開始され、篳篥と共に主旋律を奏でます。

平安貴族の男性にとっては音楽の教養の基本とされた楽器で、村上天皇や一条天皇は笛の名手だったと伝えられていますし、平安文学では、貴公子がふとした折に懐から取り出して吹いたり、女君の奏でる絃楽器と合奏したり、と盛んに登場します。
『枕草子』第207段「笛は」で真っ先に挙げられているのもこの竜笛で、
車にても、徒歩よりも、馬にても、すべて懐にさし入れて持たるも、なにとも見えず、さばかりをかしきものはなし
と記され、常日頃からさりげなく懐に入れて持ち歩いていた様子が窺われます。
尤も、竜笛がこんな風に身近な存在だったのは男性だけで、女性が演奏することは当時ありませんでした。
『とりかえばや物語』で懐妊のため都から姿を隠す女大将が
幼くより手馴らしたまひし横笛ばかりぞ、吹き別れなんかなしさ」(巻三)
を思うのも、そうした当時の習慣に拠ります。

010ryuteki『源氏物語』でも一番多く登場する管楽器で、主人公クラスの上流貴族達が雅やかに横笛を吹く様が折々に描かれています。
光源氏が琴の琴に次ぐ得意な楽器としている他、頭中将や左馬頭の知人の殿上人、民部大輔(光源氏と共に須磨へ下向した従者)、夕霧、夕霧の長男、柏木(ただし演奏場面なし)、紅梅大納言の若君、薫、中将(小野の尼君の娘婿)など、奏者がはっきりするのは中~上流階級に属し風流人として描かれる人々ばかりです。
中でも薫の横笛は、柏木遺愛の笛を受け継ぎ、その音色も八の宮に
致仕大臣の御族の笛の音にこそ似たなれ」(椎本巻)
と呟かれるなど、薫の出生の秘密に関わる大きな存在となっています。
また、牛車の中など移動中に演奏する描写が多いのも他の楽器にはない特徴で、笛の音を遠く響かせながら大路を行く様子は、『枕草子』や『蜻蛉日記』にも風情のあるものとして点描されています。

尚、宮中には多くの竜笛の名器が伝わっていたようで、『枕草子』第89段「無名といふ琵琶の御琴を」には、水竜、小水竜、釘打、葉二といった名前が記されています。

上の写真は、2004年風俗博物館出張展示「一条帝による土御門邸行幸」より、竜笛を吹く唐楽の楽人です。

【参考文献】
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
東儀信太郎[ほか]執筆『雅楽事典』音楽之友社 1989年
平野健次[ほか]監修『日本音楽大事典』平凡社 1989年

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雅楽の楽器:龍笛(竜笛)(雅楽のウェブログサイト/ kenken’s 雅楽)

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