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2005年10月 5日 (水)

013_2sho(写真は、風俗博物館実物大展示室に備え付けられている笙)
中国伝来のフリー・リードの気鳴楽器。
唐楽や催馬楽で使用されます。
鳳凰が翼を収めた姿に見立てて「鳳笙」とも呼び、平安文学では多く「笙の笛」と書かれます。

構造は、吸口のついた頭の円周上に長さの異なる17本の竹管を立て、帯金具で締めて固定します。
それぞれの竹管には、下端近くに指孔、上部に「屏上(びょうじょう)」と呼ばれる共鳴孔が空いていて、また17本のうちの15本は「簧(こう)」と呼ばれる銅と錫の合金製のリードを持ちます。
吹口からの吸い込み・吹き込みの両方で簧を振動させ、指孔を塞ぐことでその振動が竹管内で共鳴して音が鳴ります。
通常は「合竹(あいたけ)」と呼ぶ五六音の和音を奏でます。
息を吸うことでも音が鳴ることと、和音を奏でられることがこの楽器の大きな特徴です。
安定したピッチを保って響く和音は、よく「天から射し込む光を表現したもの」と解説されます。
全体の寸法に厳格な規定はなく、江戸時代の雅楽書『楽家録』巻十には、日本の笙には大小の定めがなく、大は一尺五寸(約45.4cm)、小は一尺二寸(約36.3cm)と記されていて、楽器毎にかなり幅がありました。
現行では47cm程度のものが多いようです。

『源氏物語』では「」「笙の笛」を合わせて5例あり、若紫巻の1例を除いて幼い男の子が奏者として登場します。
賢木巻では、二条院での仲間内の打ち解けた管弦の遊びで頭中将の次男(八・九歳)が。
若菜下巻では、女楽の席で玉鬘の長男(十一歳)が。
宿木巻では、藤壺での藤花の宴で夕霧の七男(年齢不明。原文に「」とあり)が。
いずれの例も、「うつくし」とその可愛らしさが賞讃されています。
清少納言は
吹く顔やいかにぞ」(『枕草子』第207段「笛は」)
と笙を吹く見た目に難をつけていますが、管楽器の中では大振りな笙を小さな子供が一生懸命に吹く様子は、紫式部の目に好ましく映っていたようです。

013sho

『枕草子』でも笙は3例しか登場せず、演奏が記されるのは第77段「御仏名のまたの日」の1例のみ、竜笛・筝・琵琶との合奏が記されています。
『源氏物語』でも5例すべてが琴笛との合奏であることを考えると、竜笛と違って独奏の機会がないことが登場回数を少なくしている原因かもしれません。
ただし、催馬楽はこの時代とても流行し、『源氏物語』の中でも演奏する場面が非常に多いので、文中にはっきり記されることこそありませんが、笙が演奏される機会そのものは多かったのではないかと思います。

『枕草子』第89段「無名といふ琵琶の御琴を」には、「いなかへじ」という変わった銘をもつ御物の笙があったことも記されています。

上の写真は、風俗博物館2004年出張展示「一条帝による土御門邸行幸」より、笙を吹く唐楽の楽人です。

【参考文献】
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
東儀信太郎[ほか]執筆『雅楽事典』音楽之友社 1989年
平野健次[ほか]監修『日本音楽大事典』平凡社 1989年
安倍季尚撰;正宗敦夫編纂校訂『楽家録』(覆刻日本古典全集)現代思潮社 1977年

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雅楽の楽器:笙(鳳笙)(雅楽のウェブログサイト/ kenken’s 雅楽)

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