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2005年11月 9日 (水)

脇息

016kyosoku座の前や脇に置いて、肘を乗せて身体をもたせ掛ける道具。
奈良時代には「挟軾(きょうしょく)」と呼ばれた調度で、音が転じて「脇息(きょうそく)」となりました。
(写真は2005年風俗博物館出張展示「六条院行幸」より、冷泉帝の御座に設えられた螺鈿の脇息)

『類聚雑要抄』巻四には図と共に寸法や素材の記載があり、当時の脇息の具体像が掴めます。
肘を乗せる甲板は長さ約106.5cm、幅約13.5cm、厚さ約2.7cmで端には丸みを持たせ、両端下部に2本ずつの脚を付け、脚の下に脚座と呼ばれる台を置きます。
『類聚雑要抄』には脚の長さあるいは全体の高さの記述が見当たらないのですが、この寸法を元に復元模型を作成した風俗博物館では、全体の高さを36.5cmとしています。
膝を崩して座って横に寄りかかるとちょうど収まりがよい高さ、というところでしょうか。
素材は「紫檀」と記され、脚には銀蒔絵で筋を入れるとの指示があります。

脇息を描いた絵巻も多く、『類聚雑要抄』の図と同じ形の他、『春日権現霊験記』のようにY字型の脚を持つものも描かれています。
また現代に伝わる遺品の中には、紫檀の他に檜や沈を素材とするものもあり、蒔絵や螺鈿、木画(木象眼を用いて絵のように文様を表す木工の装飾方法)などが施されています。
中でも藤田美術館所蔵の国宝「花蝶蒔絵挟軾」は、9世紀作成と推定される現存唯一の例として著名です。

『源氏物語』には「脇息」の用例が15例あり、くつろいで休息したり、病に臥せる人がそれを支えに身体を起こしたり、といった場面で登場します。
性別も年齢も聖俗も問わず幅広い人々が使用しており、非常に身近な調度だったようです。
用例からは、脇息の上に経を置いて読んだり(若紫巻)草子を広げてかな手本を書いたり(梅枝巻)と、時には文机の代わりに用いたこともわかります。
15例のうち、衰弱した紫の上が脇息に寄りかかって前栽を眺める御法巻の場面と、傷心の中の君が匂宮の琵琶の音色に惹かれて脇息に寄りかかって几帳の端から差し覗く宿木巻の場面とは、国宝『源氏物語絵巻』で絵画化されています。
意外なことに、『源氏物語』の中に脇息の素材や装飾についての言及は全くないのですが、国宝『源氏物語絵巻』宿木三では、中の君が寄りかかる黒い脇息の甲板に細かな模様が入っているのが見て取れ、漆塗金蒔絵の脇息として描かれているようです。

017kyosoku_2また、「脇息」という言葉そのものは出てきませんが、『源氏物語』をはじめ王朝物語によく描かれる女君の「寄り臥す」という動作の多くは、脇息に腕を乗せて身体を預け、袖の上に顔を伏せるような動作なのではないかと個人的には思っております。

最後に、違う角度からの写真をもう1枚。
(2004年下半期風俗博物館展示「女房の日常」より)
脚が片側に2本ずつ付いているのと、脚座の部分をよくご覧いただけるかと思います。
因みに、隣に写っているのは小型の火桶です。

【参考文献】
『類聚雑要抄』(3訂版『群書類従』第26輯所収)続群書類従完成会 1960年
山中裕, 鈴木一雄編集『平安時代の信仰と生活』至文堂 1994年
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
五島邦治監修;風俗博物館編集『源氏物語六條院の生活』改訂版 青幻舎 1999年

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