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2006年1月20日 (金)

国宝『源氏物語絵巻』に描かれた謎のモノ達 (1) 美麗几帳

国宝『源氏物語絵巻』の科学分析と復元模写のプロジェクトは、NHKで5年にわたって特集番組が放映されたりして、ご存知の方も多いかと思います。
去年秋に徳川・五島両美術館所蔵全19点の復元模写が完成し、11月12日~12月4日に徳川美術館で開催された国宝『源氏物語絵巻』全点展示では、これらの復元画も一緒に展示されました。
プロジェクトを通して、褪色と剥落の進んだ原画を肉眼で見るだけではわからなかった部分が解明されたり、これまで言われていた通説が覆されたりと、さまざまな発見がなされ、今後の研究の進展も期待されているところですが、逆に色鮮やかな復元模写によって細部がはっきりしたことで、「なんでこんなところにこんなものが?」と首を傾げたくなるような箇所に気づくようにもなりました。
このトピックでは、筆者が個人的に不思議に思っている“謎のモノ達”を、結論も何もなく疑問形のままご紹介いたします。
(もしかしたら、既に何らかの研究論考が発表されているかもしれません。調査の行き届いていない点はご容赦ください)

今回取り上げるのは、柏木(一)と柏木(二)、そして橋姫に描かれている煌びやかな几帳です。

原画では画面全体が茶色っぽく変色しているので目立ちませんが、柏木(一)で女三の宮・朱雀院・光源氏の3人と女房達とを隔てる2本の几帳の帳(かたびら)は、梔子色の地の全面に三重襷花菱の文様が配された大変華やかなものです。
女三の宮の脇に立てられた裾濃の三尺几帳もそうですが、このように華麗な織りや染めを施した帳を掛けた几帳は、特に「美麗几帳」と呼ばれ、儀礼の折などに用いられました。
女三の宮は何と言っても二品内親王で六条院の正妻ですから、豪華な几帳に囲まれていること自体は別に不思議でも何でもありません。

ですが、同じ几帳が他の場面でも描かれているとなると、ちょっと趣は変わってきます。
柏木(二)では、夕霧が裾を捲っている柏木の枕元の几帳が、同じ色、同じ文様で描かれています。
女房達のいる画面左側の几帳はごく普通の白地に朽木文様の帳ですので、余計にこの美麗几帳が目に付きます。
そして橋姫では、画面左隅、筝を弾く姫君の横に立てられた几帳が、やはり梔子色の地に三重襷花菱文様の帳です。
太政大臣の嫡男である柏木のごく身近なところに設えてあるのが美麗几帳だというのは、人臣の頂点に立つ一家の権勢と派手好みな父大臣の性格とを考えるとわからなくもありませんが、宇治に隠棲している没落した宮家に絢爛たる美麗几帳というのはどうにも似合いません。
しかも、他に描かれた美麗几帳は、いずれも裾濃の几帳で、このように全面に彩色が施され文様が描き込まれているのはこの3場面の4本のみなのです。

多くの場面の絵が散逸してしまった以上、現存している絵だけを取り上げて共通性を云々するのはナンセンスかもしれません。
ですが、六条院世界を崩壊させた密通の当事者達――女三の宮、柏木、そして2人の間の不義の子・薫――が、その宿命を己の身に引き受ける重大な場面を描いた3つの絵に、色も柄も同一のモノが描き込まれているのは、何か意図があってのことではないかという気がしてなりません。
華やかな王朝貴族の世界を描いた『源氏物語絵巻』の中でもひときわ煌びやかな美麗几帳の色彩が、六条院の完璧な栄華の翳で苦悩と悲哀を抱える3人のつながりを逆説的に示している…と読むのは、あまりに深読みが過ぎるでしょうか?

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