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2006年1月 1日 (日)

元旦の行事

026daigokuden

お正月ですので、今日は新春行事のお話を少々。

『源氏物語』で元旦の行事が具体的に描かれている場面としては、紅葉賀巻と初音巻が挙げられます。

男君は、朝拝に参りたまふとて、さしのぞきたまへり。(紅葉賀巻)

光源氏が参内の前に紫の君のいる西の対に立ち寄る、元日の朝の場面です。

ここで出てくる「朝拝」とは、「朝賀」とも言い、元旦の辰の刻(午前7~9時)に天皇が大極殿に出御して群臣から新年の祝賀を受ける儀式です。
即位式と並ぶ大礼とされ、大極殿の前庭には宝幢(中国伝来の儀式用の幡飾り)を立て、天皇も親王・臣下も皆礼服を着用しました。
長岡京大極殿跡からは朝賀の際に宝幢を立てた柱の堀形が発掘され、往時の盛大な儀式の威容を伝えています。
ただし、一条朝になるとこの儀式は廃絶し、清涼殿東庭での小朝拝が専らになりました。

歯固めの祝ひして、餅鏡をさへ取り混ぜて、千年の蔭にしるき年のうちの祝ひ事どもして(初音巻)

初音巻に描かれるのは、新造なった六条院で初めて迎える新年の様子です。

歯固めの祝ひ」は、「供御薬(みくすりをぐうす)」と呼ばれる年中行事の一部で、元日早朝に屠蘇(数種の薬草を組み合わせた屠蘇散を酒に浸してつくった薬酒)と共に硬い食べ物を口にして長寿を願う儀式です。
「歯」は「齢」に通じ、歯を固めることで“齢を固める=長生きする”という意味が込められていました。
『西宮記』巻一「供御薬事」には、歯固めの具として「大根、瓜、串刺、押鮎、焼鳥等」と挙がっています。
たゞ押鮎の口をのみぞすふ」という『土佐日記』の船上での元旦の記述も有名ですね。

もうひとつこの場面で挙がっている「餅鏡」は、現在の鏡餅と同じです。
とはいえ、現在のように鏡開きをして食べるというような習慣は当時なかったようで、お供えしてそれを見ることが主眼でした。
初音巻でも、上記引用文の少し後に
今朝、この人びとの戯れ交はしつる、いとうらやましく見えつるを、上にはわれ見せたてまつらむ
という源氏の台詞があり、餅鏡は見るものであったことが窺われます。
「餅鏡」の名前は、お餅を鏡のように丸く平たい形に成形することによります。
なぜ鏡を模るのかはよくわかりませんけれど、あるいは鏡が古代の祭祀に用いられたことと関係があるのでしょうか?
『源氏物語図典』(小学館)によると、『源氏物語』のこの場面は文献上最も古い餅鏡の例なのだそうです。

もうひとつ、具体的な描写とは言えませんが乙女巻にも元旦の記述があります。

朔日にも、大殿は御ありきしなければ、のどやかにておはします。

太政大臣となった光源氏の、二条院でのゆったりとした元旦です。

御ありき」とあるのは「参座」という新年の行事のことで、元日から三日にかけて、臣下が内裏や摂関家などに祝賀に訪れます。
位人臣を極めた源氏には、最早どこかへ出向いていって新年の祝賀を申し述べる必要はないという訳です。

因みに、紅葉賀・初音両巻にもこの参座の記述があります。

参座しにとても、あまた所も歩きたまはず、内裏、春宮、一院ばかり、さては、藤壷の三条の宮にぞ参りたまへる。(紅葉賀巻)
朝のほどは人びと参り混みて、もの騒がしかりけるを、夕つ方、御方々の参座したまはむとて、心ことにひきつくろひ、化粧じたまふ御影こそ、げに見るかひあめれ。(初音巻)

紅葉賀巻時点の光源氏は十九歳・宰相中将で、父帝、兄東宮、一院、そして出産のために三条宮に里下がりしている藤壺を訪ねました。
一方、初音巻での光源氏は三十六歳・太政大臣、参座の人々を迎える側になっています。
そして「御方々の参座」は、源氏が女君達の許へ新年の挨拶回りに出かけることを、冗談めかして「参座」と表現しているものです。

以上、ごく簡単に『源氏物語』に登場する元旦の行事をご紹介いたしました。
写真は朝賀に絡めて、平安神宮の大極殿(平安宮大極殿の5/8サイズ復元)です。

【参考文献】
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
山中裕, 鈴木一雄編『平安時代の儀礼と歳事』(平安時代の文学と生活)至文堂 1994年
中野幸一編『常用源氏物語要覧』武蔵野書院 1995年
五島邦治監修;風俗博物館編集『源氏物語と京都 : 六條院へ出かけよう』光村推古書院 2005年

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