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2006年2月 5日 (日)

国宝『源氏物語絵巻』に描かれた謎のモノ達(3)御簾の鉤

※この記事はシリーズで書いています。
 「国宝『源氏物語絵巻』に描かれた謎のモノ達(1)美麗几帳
 「国宝『源氏物語絵巻』に描かれた謎のモノ達(2)尼君
 を未読の方は、そちらから先にお読みいただければ幸いです。

事典や便覧の類で「御簾」の項を開くと、大概
御簾には、巻き上げたときに掛け留める「鉤(こ)」と呼ばれる半円形の金具が付いていて、これに「鉤丸緒(こまるお)」と呼ぶ房飾りを垂らす
と解説されています。
この説明は、平安後期に成立した『類聚雑要抄』の指図などに拠るものだそうですが、『類聚雑要抄』と概ね同時期の成立と思われる国宝『源氏物語絵巻』には鉤が描かれていないと言われていました。
これに基づき風俗博物館では、『源氏物語』が書かれた11世紀初頭には鉤を使って御簾を留めることはしておらず、絵巻作成当時はまだそのことが認識されていたために絵巻に描かれなかったのだろうと推測し、鉤を使わず紐で結ぶ形で模型を作製しています。

ですが、復元された模写を見ると、柏木(二)では巻き上げられた御簾の所々にはっきりと鉤が描かれています。
そう思って改めて原画を見てみますと、よくよく見れば御簾の弧に沿って黒ずんだ曲線が描かれているように思えます。
一方で、同じように巻き上げられた御簾が描かれている横笛や橋姫、宿木(三)、東屋(一)などでは、目を皿のようにして凝視しても鉤が描かれている形跡はなく、復元模写にも描かれてはいません。
また、東屋(二)では、簡素な簾が白い紐(?)で結び留められているように見えます。

どの図にも鉤丸緒がないのは一目瞭然です。
けれども鉤は、あったのかなかったのか、剥落と褪色が進んだ原画からはよくわかりません。
また、原画にあったとしても、それが作成当初から描かれていたものか後補(後世の補修で描き加えられたもの)なのかという問題もあります。
(顔料の色や質、筆遣いなどから、はっきり後補とわかる箇所も少なからずあるのだそうですが、それがどういう形で復元模写に反映されているのかは、筆者にはわかりません)
下ろした御簾を描いた御法や竹河(二)の画面からは、御簾の内側の帽額(もこう)に赤い紐が取り付けられているのが見て取れ、風俗博物館の模型がそうなっているようにこの紐で結び留めたか、とも考えられますが、その割には巻き上げられた御簾に赤い紐が掛かっている様子が描かれていないのは引っかかります。
上記のとおり、図によって鉤のようなものが描かれていたり描かれていなかったりするのも不可解なところです。

果たして『源氏物語』が書かれた平安中期、人々は巻き上げた御簾をどうやって留めていたのでしょうか。
国宝『源氏物語絵巻』の美術的・文学的鑑賞とはおよそ関係のないことですが、平安時代の住生活の重要な要素だった筈の御簾の上げ方は、この時代の風俗に興味を持つ筆者にとって気になって仕方がない点です。
当時のごく日常的な生活習慣ほど、1000年後の今となっては謎に包まれています。

《追記》
風俗博物館の御簾の模型のつくり方については、記事掲載時点では風俗博物館ホームページに井筒與兵衛館長が書かれた「御簾について」という文章が掲載されていて、この記事からもリンクを張っていたのですが、2006年6月のリニューアルの際に削除されてしまったようなのでリンクを解除しました。

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