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2006年3月12日 (日)

時を止める、遡る~国宝『源氏物語絵巻』の模写~

現在、五島美術館で[特別展]「よみがえる源氏物語絵巻―平成復元絵巻のすべて―」が開催されています。
昨年秋に完成した国宝『源氏物語絵巻』19図の復元模写(「平成復元模写」と名付けられたようです)がすべて展示されている他、昭和30年代に初めて絵巻の復元に挑んだ桜井清香氏の模写や、江戸時代・住吉広行筆の古模本、大正末~昭和初期に田中親美氏が制作した剥落模本、芸大が現在も続けている剥落模写など、国宝『源氏物語絵巻』の模本類が勢揃いした展覧会です。
昨年この概要を耳にしてからずっとずっと待ち望んでいた展覧会に、昨日行ってまいりました。

なんと言っても圧巻は、平成復元模写19点。
各図について、デジタル出力した原寸大の原画図版、平成復元模写、桜井清香筆模写、の順で並んでいて、左右に比較しながらじっくり見ることができました。
昨年秋に徳川美術館で展示されたときは、原画の全点展示がメインだったためか、原画と復元模写は別の部屋に置かれていたので、今回の展示方法は嬉しい限り。
そうして実感したのは、完成したばかりの平成復元模写の、眩いまでの華麗さでした。
一部は既に見ていますし、図録で全体も把握してはいましたが、改めて実物と向き合うと、1点1点の煌びやかな色彩に圧倒されます。
柏木(二)では、壁代の桜の文様がくっきりと浮かび上がって見え、NHKの番組で言われていた「死にゆく柏木を桜が取り巻いている」という構図が理屈抜きに体感できました。
蓬生の銀の効果にも驚かされました。
TVで初めてこの図の復元模写を見たときも愕然としましたが、そのときはどちらかというと「意外」という感じが強い驚きでした。
でも実物を見て、画面には描かれていないけれど『源氏物語』原文に「月さし出でたり」「艶なるほどの夕月夜」「月影」「月明くさし出でたるに」と繰り返し記される雲間から明るく差し込む月の清冽な光が、あの銀色の庭からはっきりと感じられ、感嘆する他ありませんでした。
他にも、竹河(二)の桜の花びらや御法巻の前栽の立体感、夏・秋の場面全般に見られる直衣や指貫の下の衣を透かせる木目細かな質感、髪や御簾の線の繊細さ、更には原画を忠実に再現するために鈴虫(一)の下絵段階で書き込まれて彩色の上からもうっすらと読み取れる文字、などなど…。
図録を見ただけでは気づかなかった点が次々と目に飛び込んできて、言葉もなく見入ったまま会場1周、という状態でした。
何か途轍もないものを見てしまった、という感覚を1日経った今も抱いています。

もうひとつ衝撃的だったのは、各時代の剥落模写により、原画の傷みが現在進行形であるという事実を目の前に突きつけられたことでした。
田中親美氏筆の関屋には青い霞とその中に浮かぶ朱色の紅葉が辛うじて色を留めていたり、住吉広行筆の東屋(一)には裾濃の几帳の下の方まで柄が描かれていたり。
中でも柏木(二)は、昭和18~34年に制作された川面義雄氏制作の木版摺複製と平成17年に高島圭史氏が描いた剥落模写とが隣り合って展示されていて、半世紀の間に生じた劣化を痛感しました。

原画は今後も確実に褪色を続けていくでしょう。
ならば、現状模写は作品を押し流す時を止めようとする、そして復元模写は更に時を遡ろうとする、壮大な企てなのではないでしょうか。
いつの日か、原画が何を描いたかわからないほど劣化したり、あるいは完全に消失してしまったときには、きっと今回展示された沢山の模写達が、国宝『源氏物語絵巻』の証人となり、その役割を引き継いでいくことになるのでしょう。
止まれ!と叫んでも決して止められない“時”に流され続ける作品を、画家達は自らの手で写し取ることで、掬い上げようとしている…そんなことを感じさせられた展示でもありました。

「複製しか出ない展覧会」などと侮るなかれ。非常にお薦めです。3月26日(日)まで。

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『よみがえる源氏物語絵巻 全巻復元に挑む』 NHK名古屋(晴れのち平安)

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