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2006年6月 3日 (土)

前栽の意味を読み解くための参考文献

035emaki_books 国宝『源氏物語絵巻』は、いろいろな味わい方ができる作品です。
絵そのものの雰囲気を楽しむのは勿論、デザインや構図を美術的な観点から掘り下げることもできますし、『源氏物語』の原文と重ね合わせて文学的な想像を広げることも可能です。
私はつい理屈を捏ね回したくなる人間なので、描かれたものがその場面でどんな意味を担っているのか、何を象徴しているのか、といったことを主に考えています。
中でもこのところ特に興味を引かれているのが、庭に描かれている植物。
『源氏物語』の原文も植物の描写は多く、さまざまな植物が登場しますが、絵巻に描かれた植物は原文との間にしばしばズレがあり、また形状や構図にも特徴があります。
自分なりの思いつきはおいおい書いていくことにして、今日はその“思いつき”の原動力になった文献を2つご紹介いたします。

1つ目は、河添房江先生の「『源氏物語』宿木巻の自然と人間―国宝絵巻のデジタル・アーカイブから」(「國文學」48巻1号・2003年1月)
徳川美術館による復元模写プロジェクトの成果を基に、宿木(三)に描かれた前栽の秋草の意味が論じられています。
原文に登場するのは薄と菊であるにもかかわらず、なぜ菊は描かれず、替わりに萩と藤袴が描かれたのか。
それぞれの植物が象徴するものを読み解き、絵巻がこの場面を取り上げるにあたって何に焦点を合わせたのかを炙り出していく内容です。
私はそれまで、前栽に何の花が描かれているかを注意して見たことなどなかったので、何気なく描かれているように見える花のひとつひとつからも文脈が読み取れることにとても驚きましたし、自分でもそういうことを考えてみるきっかけになりました。
この論文はその後、先生の論文集『源氏物語時空論』(東京大学出版会 2005年12月 写真左)に、第五部第五章「絵巻の復元模写から読み解く『源氏物語』」の後半部分として収められています。

もう1つは、三田村雅子先生の『草木のなびき、心の揺らぎ:源氏物語絵巻を読み直す』(フェリス女学院大学 2006年3月 写真右)
こちらも復元模写プロジェクトで明らかになった絵の細部を分析し、絵巻の描き手が画面の中に織り込んだ寓意を読み取ろうとする内容で、論文調ではなく平易な文章で書かれています。
「論文」となると尻込みしてしまう方にもお薦めできる、わかりやすい本です。
書名にもなっているとおり、草木の種類そのものだけでなく、風になびいたり折れたわんだりする姿も含めて、そのように描かれたことの意味を登場人物の心情に重ねて読み解いています。
全19図のうち竹河(一)・竹河(二)・橋姫を除く16図が取り上げてられおり、1図ごとの分量はさほど多くありませんが、読者が「私だったらどう解釈するか」と想像を巡らす手がかりが沢山記されています。

これから書こうと思っている記事は、多くこのお二人の先生方から示唆をいただいているので、まず最初に敬意と感謝を込めてご紹介いたしました。
よろしければ、皆様も是非お読みになってみてください。

【Book Data】
『源氏物語時空論』(リンク先:東京大学出版会Webサイト)
著者:河添房江
発行:東京大学出版会
発行日:2005年12月20日
定価:7,140円(税込み)
大きさ:viii, 438, xiv p 22cm
ISBN:4130860348

『草木のなびき 心のゆらぎ:源氏物語絵巻を読み直す』《Ferris Books 10》
(リンク先:フェリス女学院大学Webサイト)
著者:三田村雅子
発行:フェリス女学院大学
発行日:2006年3月31日
定価:700円(本体価格)
大きさ:190 p 18cm
ISBN:4901713094

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