« 大堰(嵐山) | トップページ | 清涼寺 »

2006年7月 9日 (日)

『平安貴族の環境』

015lit_and_cult山中裕, 鈴木一雄編集 至文堂 1994年刊行
ISBN:4-7843-0118-6 税込2,625円

既にご紹介した『平安時代の信仰と生活』『平安時代の儀礼と歳事』と同じ『平安時代の文学と生活』シリーズの第1冊(写真右端)。
平安京とその周辺や平安宮内部などの地理的な事柄と、官位官職・学制などの制度面から、平安貴族の生活を取り巻く自然環境及び社会的環境が解説されています。
以下、目次です(著者敬称略)。

  • 平安貴族の環境(山中裕)
  • 平安京―王朝の風景―(朧谷寿)
  • 大内裏(佐藤信)
  • 内裏・後宮(日向一雅)
  • 平安時代の太政官政―特に内大臣について―(倉本一宏)
  • 平安時代の地方官職(大津透)
  • 平安時代の技能官人(上杉和彦)
  • 平安時代の学制・教育
    1.大学寮について(武田比呂男)
    2.大学寮直曹と別曹―国学と私学について―(大胡太郎)
    3.『源氏物語』に描かれた大学寮(鈴木一雄)

よくある『源氏物語』の副読本的な資料ですと、平安京条坊図と大内裏図・内裏図が載っていて有名な建物の解説がついている程度ですが、この本ではかなり踏み込んで、平安京遷都当初から平安末期までの地理的な変遷が詳しく記されており、内裏についてもそれぞれの殿舎の見取り図とそこを舞台にした儀式・行事や物語の場面などが紹介されています。
記述を読んでいると、「『源氏物語』のあの場面はこの場所だったのか」と、原文を読んだときには見落としていた事柄に気づいたりもします。

官制の解説では、国司や太宰帥・大弐などの地方役人、四道(紀伝道・明経道・明法道・算道)に属する技能官人、という国文学の分野ではあまり取り上げられる機会のない人々の役割と制度上の位置付けを、きちんと1つの章を設けて詳しく記述しているのが特徴的です。
また、個人的には「平安時代の太政官政―特に内大臣について―」が非常に印象的でした。
単なる解説に留まらないこの論考では、そのサブタイトルのとおり令外官である内大臣の任官の歴史を詳しく追い、『源氏物語』で光源氏・頭中将がいずれも比較的若年で権大納言から内大臣に昇進する流れが如何に当時の政治機構と権力の動向を的確に捉えたものだったかを明らかにしていて、改めて『源氏物語』の作者の底知れなさを思い知らされます。

このシリーズは、鈴木一雄氏が

いわば新・有職故実学といった、文学と政治・社会の実態、美学と生活・慣行を結ぶ本が欲しい。歴史学の研究成果の支えが欲しい。国文学と歴史学とを、もう一歩積極的に近づけたい。(あとがきより引用)

との思いを山中裕氏に訴えたところ、それでは自分達でつくろうとの話になって生まれた本である―――と記されていますが、その思い入れゆえか、最初に編まれたこの『平安貴族の環境』が最も歴史の方面に突っ込んだ内容になっています。
それだけに、文学畑の人間には正直なところ難解な部分もあるのですが、編者である鈴木氏の想いのとおり、馴染みは薄いけれど平安文学の理解のために知っておくべき内容が集められた、重みのある資料だと思います。

日本ブログ村のランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いいたします。
 にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 歴史ブログへ

|

« 大堰(嵐山) | トップページ | 清涼寺 »

資料紹介」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/113097/10761637

この記事へのトラックバック一覧です: 『平安貴族の環境』:

« 大堰(嵐山) | トップページ | 清涼寺 »