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2006年11月18日 (土)

小袿と細長(3)重ね着・被け物

※この記事は前の記事から続いています。
 「小袿と細長(1)小袿
 「小袿と細長(2)細長
 を未読の方は、そちらを先にお読みください。

068kasanegi 共に上流貴族女性の装いでありながら、少々異なる意味合いを帯びていたと思われる小袿と細長ですが、中には小袿と細長を重ね着するという着方も散見されます。
(写真左は、風俗博物館2006年上半期展示「女楽(若菜下巻)」より、葡萄染の小袿と薄蘇芳の細長を重ね着した紫の上)

撫子の細長に、このころの花の色なる御小袿、あはひ気近う今めきて、(『源氏物語』胡蝶巻)
 着用者:玉鬘
葡萄染にやあらむ、色濃き小袿、薄蘇芳の細長に、(『源氏物語』若菜下巻)
 着用者:紫の上
柳の織物の細長、萌黄にやあらむ、小袿着て、羅の裳のはかなげなる引きかけて、(『源氏物語』若菜下巻)
 着用者:明石の君
濃き袿に、撫子とおぼしき細長、若苗色の小袿着たり。(『源氏物語』宿木巻)
 着用者:浮舟
白い薄物の細長に、二藍の小袿を着たまひて、丈は三尺の几帳に足らぬほどなり。(『うつほ物語』楼上上巻)
 着用者:いぬ宮
御前には桜の織物の重ねたる、紅うち、桜・萌葱の細長、浮線綾の山吹の小袿などの、ところせくものはかばかしげなるを、(『狭衣物語』巻二)
 着用者:源氏の宮
※校訂者は桜重ねと萌黄重ねの2着の細長と解釈しているようですが、細長の重ね着は考えにくく類例も見当たらないので、私は「桜萌黄」(表萌黄・裏赤花)の細長だと思います。

小袿または細長だけを着るのと、両方を重ねるのとではどう意味合いが違うのか、詳細はわかりません。
『うつほ物語』の例は涼が幼いいぬ宮の姿を垣間見る場面で、何か特別な儀式や行事という訳ではない日常のひとコマなので、準正装である必要性は見出せません。
ですが『源氏物語』の用例については、胡蝶巻は行事などの折ではありませんが、親許ならぬ六条院で光源氏の訪問を受けた場面ですし、若菜下巻の2例はいずれも女楽の際のもの、また宿木巻も初瀬詣の帰りで、特別に格式が高いという訳ではありませんが、私生活の中では比較的改まった場での装いとして登場しているように思われます。
『狭衣物語』の例も、斎院に選ばれた源氏の宮が、潔斎所となる大弐の邸に渡る場面でのものです。
また、小袿と細長のどちらを上に着るのかも、これらの用例からははっきりしませんでした。

069kazuke 以上、『源氏物語』などの着用例を中心に考察してきましたが、この2つの衣裳は実際に女性が着ている場面だけでなく、引き出物としても頻繁に登場します。
(写真左は、風俗博物館2004年上半期展示「季の御読経(胡蝶巻)」より、禄の細長を肩に被けた夕霧)
使者への禄や宴の出席者へのご祝儀などには、身分や儀式の格式に応じて絹布や袿、女房装束一式などが授けられましたが、そうした贈り物に小袿や細長が用いられたり、「女の装束」に小袿や細長が添えられる例がよく見られるのです。
細長は、女性が着用する場面よりもむしろ引き出物として登場することの方が多いほどです。
『源氏物語』や『枕草子』『うつほ物語』『狭衣物語』『夜の寝覚』などの用例を見ていくと、特に盛大な儀式・宴の列席者や、内裏からの文遣いや後朝使のような重く扱うべき使者などに対して女房装束に小袿や細長が添えられており、華やかな色の織物で仕立てられたこれらの衣裳を加えることで、もてなしの盛大さを印象付ける狙いがあったのではないかと想像されます。
また単品で用いる場合は、「女の装束」ほど重々しくはなく普通の袿よりは格上、といった位置付けだったようです。

実際の着用においても、贈り物としても、格式の高さや華やぎを演出する衣裳として、小袿と細長の2つを捉えることができると思います。

【参考文献】
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
長崎盛輝著『かさねの色目 : 平安の配彩美』京都書院 1996年
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典』角川書店 1994年
山中裕, 鈴木一雄編『平安時代の信仰と生活』(平安時代の文学と生活)至文堂 1994年

※この記事は、小池笑芭さんのWebサイト「源氏の部屋」に掲載していただいている「小袿と細長」に若干の加筆修正を加えたものです。

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