« 小袿と細長(3)重ね着・被け物 | トップページ | 宇治殿(平等院) »

2006年11月26日 (日)

宇治上神社・宇治神社

071ujigami_1 宇治十帖の主な舞台は名前のとおり宇治、中でも八の宮の邸がその舞台の中心となって展開していきます。

住みたまふ宮焼けにけり。いとどしき世に、あさましうあへなくて、移ろひ住みたまふべき所の、よろしきもなかりければ、宇治といふ所に、よしある山里持たまへりけるに渡りたまふ。(橋姫巻)

この八の宮の山荘は、

  • 川のこなた」(橋姫巻)つまり都側の宇治川東岸であること
  • 藤原頼通の宇治殿(=現在の平等院)がモデルと見られる夕霧の別荘から「たださし渡るほど」(椎本巻)の位置にあること

などの条件を踏まえ、現在の宇治上神社付近にあったと推定するのが一般的ですが、池浩三氏は

網代のけはひ近く、耳かしかましき川のわたりにて、静かなる思ひにかなはぬ方もあれど、いかがはせむ。花紅葉、水の流れにも、心をやる便によせて、いとどしく眺めたまふより他のことなし。(橋姫巻)
中将は参うでたまふ。遊びに心入れたる君たち誘ひて、さしやりたまふほど、「酣酔楽」遊びて、水に臨きたる廊に造りおろしたる階の心ばへなど、さる方にいとをかしう、ゆゑある宮なれば、人びと心して舟よりおりたまふ。(椎本巻)

などの記述を挙げ、「宇治上神社あたりとするのは少し奥まり過ぎていよう」と批判しています(「宇治十帖の舞台」『源氏物語の鑑賞と基礎知識16 椎本』所収)。
確かに、川岸から宇治上神社までは直線距離で200m以上あり、廊を伸ばすとしたら相当の距離になりますし、現地に行くとわかりますがこの間はずっと坂道で高低差も結構あります。
平安京における公卿クラスの貴族邸宅の一般的な広さが一町(約120m四方)ですから、山荘で200m超はちょっと広すぎるでしょう。
となると、次にご紹介する伝承との関連も含め、川岸から100mほどの距離で傾斜もまだ緩やかな宇治神社の辺りを想定した方が妥当かもしれません。

072uji_j 宇治上神社と宇治神社は、江戸時代までは両社一体で、平安時代には二社を合わせて「宇治鎮守明神」「離宮社」などと呼ばれていました。
神社としての創建年代は不詳ですが、『延喜式』巻九「神名上」に記されている「宇治神社二座」はこの神社のことと考えられています。
御祭神は応神・仁徳両天皇と、応神天皇の末子で仁徳天皇の弟の菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)です。
仁徳天皇・菟道稚郎子の兄弟に関しては、神社創建の基となった、以下のような伝承があります(記紀にも類似の記述あり)。

応神天皇は末子の菟道稚郎子を皇太子に立てましたが、天皇の崩御後、菟道稚郎子は兄の大鷦鷯尊(おおさざきのみこと)に帝位を譲って宇治に離宮を建て隠棲しました。
しかし大鷦鷯尊も、自分が即位しては先帝の定めに背くと辞退し、3年に亘り空位が続いて天下は乱れ、遂に菟道稚郎子が自ら命を絶つことで、大鷦鷯尊が即位するに至りました。

この伝承について『花鳥余情』(一条兼良著の注釈書。文明四[1472]年成立)は、兄弟間の皇位継承問題、郎子の宇治隠棲などの点から、菟道稚郎子を八の宮の準拠と指摘しています。
(尚、菟道稚郎子の死を“宇治川への身投げ”と記す資料が少なからず見られますが、『古事記』では早世、『日本書紀』では自害としか書かれておらず、浮舟の入水と重なるかとも思いたくなる菟道稚郎子の入水伝承は、実際はかなり後の時代になってからの脚色のようです)

073ujigami_2 宇治神社は、菟道稚郎子の離宮「桐原日桁宮」(『山背国風土記』逸文。『日本書紀』では「菟道宮」)の跡地と伝えられ、「離宮社」の呼称も一説にはこれに由来すると言われます。
一方の宇治上神社は、ユネスコの世界遺産に登録されていますが、世界遺産登録の理由のひとつともなった国宝の拝殿は鎌倉初期に建てられた寝殿造風の建物で、平安時代の住宅建築が一切残っていない現在にあって、往時の寝殿造の建築を推測する貴重な資料となっています。
二社ともに、平安時代の面影を伝え、『源氏物語』とのつながりも深い神社です。

写真は、上から順に宇治上神社入り口の鳥居、宇治神社、宇治上神社拝殿(いずれも撮影は2006年10月)です。

【Data】
宇治上神社
 住所:宇治市宇治山田59
 交通:京阪電車宇治線宇治駅下車徒歩10分 JR奈良線宇治駅下車徒歩20分
 拝観:8:00~16:30 拝観無料(パンフレット100円)
 tel.:0774-21-4634
宇治神社
 住所:宇治市宇治山田1
 交通:京阪電車宇治線宇治駅下車徒歩5分 JR奈良線宇治駅下車徒歩15分
 拝観:境内自由 拝観無料
 tel.:0774-21-3041

【参考文献】
平凡社[編]『京都府の地名』(日本歴史地名大系26)平凡社 1981年
山中裕, 鈴木一雄編『平安貴族の環境』(平安時代の文学と生活)至文堂 1994年
雨海博洋編『源氏物語の鑑賞と基礎知識16 椎本』至文堂 2001年
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
宇治上神社『世界文化遺産 宇治上神社』 ※拝観者用パンフレット

【この記事からのトラックバック】
京都の文化財:宇治上神社(古都京都へ行きたい!)
宇治神社(京のほっこり談話帖)

日本ブログ村のランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いいたします。
 にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 歴史ブログへ

|

« 小袿と細長(3)重ね着・被け物 | トップページ | 宇治殿(平等院) »

縁の地」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/113097/12564515

この記事へのトラックバック一覧です: 宇治上神社・宇治神社:

« 小袿と細長(3)重ね着・被け物 | トップページ | 宇治殿(平等院) »