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2006年12月 9日 (土)

宇治殿(平等院)

070byodoin 永承七[1052]年に藤原頼通が創建した平等院は、周知のとおり父・道長から受け継いだ別業を寺に改めたもので、10円玉にも刻まれている鳳凰堂の姿はあまりにも有名です。
道長が度々宇治を訪れたことは『御堂関白記』に記されているとおりで、「宇治別業」として登場する他、『小右記』にも「宇治家」「宇治第」「宇治殿」などの記述が見られます。
(写真は、阿字池対岸から見た鳳凰堂。2006年10月撮影)

平安時代の宇治は、喜撰法師が

わがいほは都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり(『古今集』巻十八・983)

と詠んだ厭世の地としてのイメージも漂う一方で、山と川に囲まれた風光明媚な別荘地でもありました。
歴史上、宇治川の両岸には、源融の別業や、『蜻蛉日記』にいずれも「宇治の院」と記される藤原兼家・藤原師氏の別業など、さまざまな貴族の別業があったことが知られており、『源氏物語』の中でも、八の宮の山荘(橋姫巻)、夕霧の別荘(椎本巻)、故朱雀院の宇治院(手習巻)などが登場します。
道長の宇治別業も、そうした平安貴族の数ある別荘の1つです。

現在の平等院には、寺に改められた後の建物がごく一部残っているのみですので、道長の別業の面影を見つけるのは難しいですが、鳳凰堂や復元された阿字池などから、平安貴族の優美な建築と造園を想像することができます。

『源氏物語』椎本巻では、上にも挙げたとおり光源氏から夕霧に伝領された宇治の別荘が登場し、このモデルが平等院の前身である別業と推定されています。

六条院より伝はりて、右大殿知りたまふ所は、川より遠方に、いと広くおもしろくてあるに、御まうけせさせたまへり。(椎本巻)

川より遠方に」との表現は、都から見て宇治川の向こう側であることを意味していると解釈されています。
(引用文に続いて、都側にあった宇治八の宮の山荘と「たださし渡るほど」の位置関係にあることが記されていることからも裏付けられます)
12世紀の平等院は、現存する阿弥陀堂(=鳳凰堂)の他、本堂(大日堂)・法華堂・多宝塔・五大堂・経蔵・不動堂・護摩堂・円堂などが立ち並ぶ壮麗かつ広大な伽藍だったと伝わっていますので、その基となった別業は、正に「いと広くおもしろくてある」邸宅だったことでしょう。

この夕霧の別荘が登場するのは、匂宮が初瀬詣の帰途、宇治の姉妹への興味からここで中宿をする、という場面ですが、菅原孝標女が同じく初瀬詣に際して宇治殿を見たことが、『更級日記』に記されています。

紫の物語に宇治の宮のむすめどものことあるを、いかなる所なれば、そこにしも住ませたるならむとゆかしく思ひし所ぞかし。げにをかしき所かな、と思ひつつ、からうじて渡りて、殿の御領所の宇治殿を入りて見るにも、浮舟の女君のかかる所にやありけむなど、まづ思ひ出でらる。

宇治に来て真っ先に思い浮かぶのが『源氏物語』…というのがいかにもこの著者らしいところですが、孝標女に倣ってこの地で宇治十帖の世界に思いを馳せてみるのもよいかもしれません。

尚、観光ガイドをはじめ多くの資料に、
平等院は、元は源融の別業で、宇多天皇・源重信を経て藤原道長の所有となった
と記されていますが、その根拠は『花鳥余情』(一条兼良著の『源氏物語』注釈書。文明四[1472]年成立)の記述です。
『小右記』長保元[999]年八月九日条に
左府払暁引率人々向宇治家、[自六条左府後家手買領処也、]
とあるので、道長の前の所有者が「六条左大臣」と呼ばれた源重信だったことと、重信の死後に彼の妻から道長が購入したことは間違いないのですが、私が調べた限りでは、源融の別業が確かに平等院の位置だったと断定する根拠も、源融の別業が宇多天皇なり源重信なりに伝領されたことを示す史料も存在しないようでした。
『蜻蛉日記』に端的に表れているとおり、宇治には「宇治院」と呼ばれる別業がいくつもあり、『花鳥余情』の記述は複数の宇治院・宇治別業の事跡を混同している疑いもあります。
光源氏のモデルの1人と目される源融の別業が、変遷を経て夕霧が源氏から受け継いだ別荘のモデルとなった…という展開は、『源氏物語』読者にとっては魅力的ですが、史実と断言するには些か心許ないところだろうと思います。

【Data】
住所:宇治市宇治蓮華116
交通:JR奈良線宇治駅下車徒歩10分 京阪電車宇治線宇治駅下車徒歩10分
拝観:8:30~17:30(入園受付~17:15) 入園+鳳翔館600円 鳳凰堂内部300円
tel.:0774-21-2861

【参考文献】
平凡社[編]『京都府の地名』(日本歴史地名大系26)平凡社 1981年
今井源衛著『源氏物語の思念』(笠間叢書206)笠間書院 1987年
雨海博洋編『源氏物語の鑑賞と基礎知識16 椎本』至文堂 2001年
平等院ミュージアム鳳翔館編『CG写真集平安色彩美への旅 : よみがえる平安の色彩美』平等院 2005年
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
平等院オフィシャルホームページ

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