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2007年2月25日 (日)

算賀(6)仏事と賀宴

算賀(3)事前準備にて、天皇・上皇・太后の算賀では賀宴の前に諸寺で諷誦を修することをご紹介しましたが、その例に限らず、法要を催して無病息災や将来の福徳を祈願することが広く行われました。
歴史上の天皇・上皇算賀では、僧が賀の主催者となって造仏や写経を行ったり、御賀の巻数を奉じたりした事例がありますし、『栄花物語』巻二十「御賀」には被算者の年齢に合わせて60人の僧侶を招いたことが記されています。

『源氏物語』においては、紫の上主催の式部卿宮五十の賀と、同じく紫の上主催の光源氏四十の賀で、まず仏事を催し、後日に精進落としの祝宴を行ったことが語られます。
(式部卿宮五十の賀は、準備の描写のみ)

年返りて、ましてこの御いそぎのこと、御としみのこと、楽人、舞人の定めなどを、御心に入れていとなみたまふ。経、仏、法事の日の装束、禄などをなむ、上はいそがせたまひける。(乙女巻)

神無月に、対の上、院の御賀に、嵯峨野の御堂にて、薬師仏供養じたてまつりたまふ。(中略)二十三日を御としみの日にて、この院は、かく隙間なく集ひたまへるうちに、わが御私の殿と思す二条の院にて、その御まうけせさせたまふ。(若菜上巻)

また女三の宮主催の朱雀院五十の賀では、

五十寺の御誦経、また、かのおはします御寺にも、摩訶毘盧遮那の(若菜下巻)

と当日最初に読経が催され、ついで舞楽や女三の宮の琴演奏などが行われたと推測されます。

賀宴当日の儀式の概略は、『新儀式』の他、『小右記』や『栄花物語』などからわかります。

『新儀式』第四「奉賀天皇御算事」では、天皇が出御した後に内侍が人々を召し、それに応じて親王以下が参入・着座するとなっており、上皇・皇后算賀でも同様の儀式次第になっています。

仏事を当日に行う場合は、まず最初に法要が営まれたようです。

次いで献物がされ、被算者と列席者に食膳が供されます。
献物と食膳については、算賀(4)室礼・献上品でご紹介したとおりです。

084sanga_8 その後、楽人が参入して奏楽し、舞楽を行います。
舞楽は賀宴の華だったようで、仮名作品ではほとんど例外なく舞楽についての記述がありますし、漢文日記でもよく言及されています。
それらの記述で特に頻繁に登場するのが「陵王」と「納曽利(落蹲)」で、その他「万歳楽」「賀王恩」「賀殿」「秋風楽」「皇麞」「太平楽」「喜春楽」「青海波」などが見られます。
ただし「青海波」については、青海波(1)伝来と平安時代の事例で書きましたように、『源氏物語』の影響で算賀に取り入れられるようになったとも考えられます。
当然のことですが、行事の性格上、華やかでおめでたい演目が好まれたのでしょう。
(写真は、風俗博物館2004年下半期展示「紫の上主催源氏四十の賀」より、納曽利の入綾を舞う夕霧と柏木。左側に並んでいるのは、右方の楽人が控える平張)

舞楽が終わると儀式は終了で、列席者に禄が授けられ、被算者は退出します。
『新儀式』第四「奉賀天皇御算事」によると、帝が清涼殿へ還御した後、管弦に堪能な公卿や侍臣を御前に召して酒宴を賜い歌や管弦の遊びを催すこととなっており、内輪の宴で〆となったようです。
『栄花物語』巻二十「御賀」にも、舞楽の後に上達部によって管弦の遊びがなされたことが記されていますし、これはつくり物語の例になりますが『うつほ物語』菊の宴巻でも舞楽の後であて宮が琴を演奏する場面があります。

『源氏物語』の算賀の場面も、こうした史実の儀式次第に則った内容になっています。

朱雀院の御薬のこと、なほたひらぎ果てたまはぬにより、楽人などは召さず。(若菜上巻)

と断り書きの付いた玉鬘主催の光源氏四十の賀のみを例外として、当日の様子が描かれない式部卿宮五十の賀・朱雀院五十の賀も含めたすべての例で楽人と舞人の用意に特に気を配ったことが読み取れますし、当日の様子を描いた場面では、列席者に見事な禄が授けられた記述で儀式の様子が締め括られています。
085sanga_9 また、玉鬘主催・夕霧主催の源氏四十の賀での管弦の演奏や、朱雀院五十の賀で予定された女三の宮の琴演奏は、宴の終わりに催される内輪の遊びに当たると考えられます。
(写真は、風俗博物館2004年上半期展示「玉鬘主催源氏四十の賀」より、列席の公卿・親王達と、管弦の遊びのための楽器の用意をする人々)
舞楽の曲目については、「青海波」「秋風楽」(紅葉賀巻)「万歳楽」「皇麞」「落蹲」(若菜上・下巻)「賀王恩」(若菜上巻)「陵王」「太平楽」「喜春楽」(若菜下巻)の名前が挙がっています。

以上、歴史の記録や他の作品に記された算賀の記述から、『源氏物語』の算賀の場面を見てまいりました。
『源氏物語』の描写は、当時の慣習をよく踏まえており、歴史的にも価値が高いとされています。

【参考文献】
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
浅尾広良[著]『源氏物語の準拠と系譜』第Ⅱ篇第3章「光源氏の算賀―四十賀の典礼―」翰林書房 2004年
中田武司編集『源氏物語の鑑賞と基礎知識14 若菜上(後半)』至文堂 2000年
中田武司編集『源氏物語の鑑賞と基礎知識3 若菜上(前半)』至文堂 1998年
山中裕, 鈴木一雄編『平安時代の儀礼と歳事』(平安時代の文学と生活)至文堂 1994年

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