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2007年3月 1日 (木)

法華八講(1)概要

086hakkou_01 法華八講とは、法華経(=鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』)八巻を一巻ずつ八座で読誦・講讃する法会です。
(写真は、風俗博物館2007年上半期展示「紫の上による法華経千部供養」より、薪の行道をする僧と参会者)
具体的には、読師が経題を唱えて講師が経文を講釈し、更に問者が教義上の質問をして講師がそれに答え、精義が問答を判定、堂達が進行を司ります。
実際にはその時々で短縮や延引があるものの、朝夕二座の四日間で行うのが標準的な儀式次第でした。
その始まりには複数の伝承がありますが、いずれも平安時代初頭に死者の追善供養を目的として営まれたとされています。

天台宗の根本経典である法華経は、「護国の経典、成仏の直道」として平安貴族に篤く信仰され、絢爛華麗な法会が盛んに営まれました。
中でも、第五巻に収められた提婆達多品は、仏敵と竜女の成仏を説くところから悪人・女人往生の根拠として特に尊重されました。
087hakkou_02 法華八講にもその点が反映されており、この巻を講じる日は特筆して「五巻の日」と呼ばれ、関係者がさまざまな仏への捧げ物(これを「捧物(ほうもち)」と言いました。「俸物」とも書きます)を携えて参会し薪の行道を行いました。
薪の行道は、釈尊が前世で薪を拾い水を汲んで仙人に仕え妙法を授かったという提婆達多品中の逸話を踏まえ、僧と参会者が薪と水桶を背負ったり捧物を捧げ持ったりして法華讃嘆を唄いながら本尊の周りを右回りに巡るもので、視覚的・聴覚的な華やかさも相俟って、法会のクライマックスともいうべき盛り上がりを見せました。
(写真は、風俗博物館2007年上半期展示「紫の上による法華経千部供養」より、薪の行道で捧物を手に本尊の周りを巡る上達部・殿上人達。
博物館の許可を得て、模型上方より撮影させていただきました)
『栄花物語』『紫式部集』『御堂関白記』『小右記』など、仮名・漢文を問わず多くの史料に五巻の日への言及が見られるのも、当時の人々の関心の高さを示すものといえます。

『源氏物語』の中では、藤壺主催(賢木巻)、光源氏主催(澪標巻)、紫の上主催(御法巻)、明石中宮主催(蜻蛉巻)の法華八講が描かれています。
(紫の上主催の法華経千部供養は八講と明記されておらず、甲斐稔氏のように八講とのずれを指摘して通常の経典供養と見做す研究者もいますが、帝・后や他の女君達が「俸物」を用意したり「薪こる讃嘆の声」と薪の行道を指すと思われる記述があるので、私は八講の形式で営まれたのではないかと考えます)
この他、出家した女三の宮が年に二回法華八講を営んでいることが匂宮巻に語られていますが、具体的な法会の描写はありません。

尚、法華会の種類としては、法華八講以外に法華十講や法華三十講などもありました。
十講は、法華経八巻に無量義経(=開経。釈尊が法華経に先立って説いた経典)と観普賢菩薩行法経(=結経。法華経を受け結びとして説いた経典)の各一巻を加えた全十巻を十座で、三十講は、『法華経』八巻二十八品と開結二経を三十座で講じるものです。
栄華を極めた藤原道長が法華三十講を度々営んだことは、よく知られています。
ただし、今成元昭氏の調査によると、史料の中には十講や三十講も「八講」と称している例が少なからずあるとのことで、「法華八講」の語には法華経の講説を行う法会の象徴としての意味合いもあったようです。

以下、『源氏物語』の記述と歴史上の事例を照らし合わせつつ、より詳しい儀式の内容をご紹介します。

【参考文献】
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
小町谷照彦編『源氏物語の鑑賞と基礎知識19 御法・幻』至文堂 2001年
須田哲夫編『源氏物語の鑑賞と基礎知識13 末摘花』至文堂 2000年
中野幸一編『源氏物語の鑑賞と基礎知識10 賢木』至文堂 2000年
中村元[ほか]編『岩波仏教辞典』第2版 岩波書店 2002年
天納傳中[ほか]編著『仏教音楽辞典』法蔵館 1995年
高木豊著『平安時代法華仏教史研究』平楽寺書店 1973年
今成元昭「法華八講の<日>と<時>―古典解読のために―」(「立正大学人文科学研究所年報」31号 1994年 pp.1-9)
甲斐稔「『源氏物語』と法華八講」(「風俗」21巻3号 1982年 pp.43-58)
山本信吉「法華八講と道長の三十講」(上:「仏教芸術」77号 1970年 pp.71-84 下:「仏教芸術」78号 1970年 pp.81-95)

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