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2007年3月 9日 (金)

法華八講(4)会場と設営

法華八講は、寺院で営まれる場合と貴族の私邸で営まれる場合とがありました。
ごく大雑把な分類ですが、毎年の恒例行事として営まれた追善八講は概ね故人の菩提寺を会場とし、逆に臨時の八講は主催者の私邸で営まれることが多かったようです。

例えば、一条天皇追善の八講は、六月二十二日の忌日に合わせて営まれる恒例のものは円教寺を会場としていますが、長和元[1012]年五月十五日を初日として皇太后彰子が臨時に修したものは枇杷殿で営まれています(『小右記』同日条)し、皇太后妍子が万寿三[1026]年五月十九日から営んだ臨時の三条天皇追善八講も、会場は寺院ではなく「皇太后宮」即ち枇杷殿です(『左経記』同日条)。
藤原道長が姉・詮子のために営んだ追善八講でも、恒例の忌日八講は慈徳寺を会場としている一方、寛弘元[1004]年五月十九日始修の臨時の八講については『御堂関白記』に「参××」といった記述が見えず、道長の自邸で営まれたのではないかと想像されます。
また、『枕草子』三十二段「小白河といふ所は」が記す藤原済時主催の結縁八講も、済時私邸の白河第で開かれています。

『源氏物語』では、具体的な描写がある4例のうち会場が特定できる3例はいずれも主催者の私邸に設定されています。
藤壺主催の例では
宮の内ゆすりて、ゆゆしう泣きみちたり」(賢木巻)
との描写から場所が藤壺の里邸の三条宮とわかりますし、紫の上の法華経千部供養は
わが御殿と思す二条院にてぞしたまひける」(御法巻)
とあるとおり、明石中宮主催も
五日といふ朝座に果てて、御堂の飾り取りさけ、御しつらひ改むるに」「釣殿の方におはしたるに」(蜻蛉巻)
などの描写から寺院や内裏ではなく貴族邸宅、つまり明石中宮の里邸である六条院と判明します。
源氏主催の例だけは会場が特定できませんが、
かの殿には、故院の御料の御八講、世の中ゆすりてしたまふ」(蓬生巻)
の「かの殿」を、源氏を指す婉曲表現ではなく直接的に場所を指すものと捉えれば、二条院が会場ということになります。

093hakkou_08会場の装束(設備の配置や飾り付け)に関しては、『栄花物語』や『小右記』『中右記』などに詳しい記述が残されています。
ここでは『源氏物語』に即して、貴族の私邸で催された例を中心に史料の記述を挙げてみます。

今日中宮奉為先帝、被修八講、仍未剋許参堀川院、於東対代廊母屋安置御仏、[等身金色阿弥陀三尊、造立西面、依便宜也、]母屋敷僧座、[北面二行、高麗端、]南面庇為公卿座、[高麗端、]南放出又庇為殿上人座、[紫端、](『中右記』嘉承二[1107]年閏十月十二日条)

この例は『源氏物語』の執筆時期より少々後の時代になりますが、堀川院で営まれた篤子内親王主催の堀川天皇追善八講の様子です。
東対代廊」というのが堀川院のいかなる建物のどういう部分なのか、私にはよくわかりませんが、ともかく母屋に本尊を安置し、その傍らに北向きに僧の座を設け、南廂に公卿、南又廂(おそらく南廂と簀子の間にもう一間廂があったのでしょう)に殿上人の座を配したことは確かです。
法華八講に限らず、母屋に本尊と僧の座、その外側の廂・簀子や周囲の廊などに参会者の座が配置されるのは、概ねどの仏事でも共通しています。
094hakkou_09 『源氏物語』ではあまり具体的な人・物の配置などを描きませんが、紫の上の法華経千部供養に参会した花散里と明石の君の座は「北の廂」(御法巻)に用意されていて、描かれた部分は実際の儀式と一致しています。
(写真上は参考資料として、風俗博物館2004年上半期展示「秋好中宮主催による季の御読経」より寝殿の装束。母屋に本尊の絵図が掲げられて周囲に僧が座り、南廂には列席の公卿が控えています。
写真下は、風俗博物館2007年上半期展示「紫の上による法華経千部供養」より、北廂に設けられた花散里と明石の君の座。手前に座っているのは、それぞれの女君に付き従う女房達です)

皇太后宮従今日五箇日於枇杷殿奉為故院令講説給、(中略)御座所[寝殿母屋、]安置新仏、[釈迦如来・普賢・文殊、安置仏殿、]有金泥法華経、[納螺鈿筥、]並行香等机・雑具・花蘰代・幡皆是新作仏具也、不遑記耳、(『小右記』長和元[1012]年五月十五日条)

こちらは、上述の皇太后彰子による一条天皇追善八講の内容です。
寝殿母屋に新たに造立した釈迦三尊像を安置し、螺鈿の経箱に納めた金泥の装飾経を供え、机や供養具、華鬘や幡などもすべて新しく誂えたというのですから、その豪華さが覗えます。
仏の御飾り、花机のおほひなどまで、まことの極楽思ひやらる」(賢木巻)と描写された堂の飾りの具体像と言えるでしょうか。

この『小右記』引用文にもいろいろ挙がっているように、法会に用いられる仏具には、経を納める経帙や経箱、閼伽器・香炉・花瓶・燭台などの仏前に供える供養具、散華の花を盛る華籠、これらを乗せる机類、華鬘や幡などの堂内を飾る荘厳具…と、さまざまな種類があります。
次回は、そうした供養具や荘厳具をご紹介します。

【参考文献】
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
清水乞編『仏具辞典』新装版 東京堂出版 1999年
甲斐稔「『源氏物語』と法華八講」(「風俗」21巻3号 1982年 pp.43-58)
安東大隆「『栄華物語』にみえる法華八講」(「別府大学紀要」31号 1990年 pp.1-6)
高木豊著『平安時代法華仏教史研究』平楽寺書店 1973年
山本信吉「法華八講と道長の三十講」(上:「仏教芸術」77号 1970年 pp.71-84 下:「仏教芸術」78号 1970年 pp.81-95)
東京大学史料編纂所作成「大日本史料総合データベース
東京大学史料編纂所作成「古記録フルテキストデータベース

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