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2007年3月15日 (木)

法華八講(6)堂の飾り・その2~供養具・机類~

096hakkou_11 法華八講での仏前の装飾や供養具について、『源氏物語』はあまり詳しく記していません。
“個別の仏具の名前が挙がっている”というレベルで

日々に供養ぜさせたまふ御経よりはじめ、玉の軸、羅の表紙、帙簀の飾りも、世になきさまにととのへさせたまへり。(中略)仏の御飾り、花机のおほひなどまで、まことの極楽思ひやらる。(賢木巻)

と描かれる装飾経と巻物状の経を包む経帙、花机の覆いが見つかるくらいで、その他はほとんど何も具体的な記述がありません。

なので、実際の様子を知るには他の資料から補う必要があります。
一例として、皇太后彰子主催の法華八講の様子を記した『小右記』の記述を挙げてみます。

以金・銀・瑠璃荘厳御堂、其内安置白檀阿弥陀仏・観音得大仏、供以銀作飯・餅等、前机・経机・礼盤・燈台其飾異例、多用金・銀、(万寿二[1025]年三月廿日条)

引用文の前に「今日於上東門宮被修如八講之御読経、於寝殿有此事」(「」は「始」の誤り?)とあることから会場が土御門殿寝殿とわかるこの事例、金銀と瑠璃で装飾した堂内の煌びやかさと並んで、銀製の供物、金銀を多用した机と礼盤(らいばん)、燈台が特記されています。
(上の写真は風俗博物館2007年上半期展示「紫の上による法華経千部供養」より、本尊の前の設え。手前から順に前机・経机・礼盤が並んでいます)

前机とは、本尊の前に置いて花や供物を載せる机のことです。
展示の前机には、閼伽器(閼伽・塗香・華鬘を入れる六器一組の茶碗型の器)と火舎(かしゃ。机の上に載せて香を焚く三脚式の据香炉)、樒(しきみ。仏教では、邪悪なものを退け清める力をもつ植物として仏前に供えます)を活けた花瓶、それから五鈷鈴(ごこれい)などの法具を載せた金剛盤などが載っていました。
経机は、名前のとおり経を載せたり読経のときに用いる机です。
写真からも、紺地の料紙に見返し絵が描かれた経の巻物が広げられているのがご覧いただけるかと思います。
礼盤は、修法のときに導師(=法会に際して中心になって儀式を執り行う僧)が座る四角い腰掛で、上には展示のように半畳を敷きます。

これらの仏具は木製の漆塗りが一般的で、「多用金・銀」とあるのは金銀の蒔絵をふんだんに施したものだったのではないかと想像されます。

097hakkou_12099hakkou_14 また、法華八講(4)会場と設営で引用した『小右記』長和元[1012]年五月十五日条に挙げられていた行香机は、法会の中で僧に配る焼香のための香を置く机で、香合(こうごう。薫香を入れておく容器)と火舎が用意されます。

因みに賢木巻に記されている「花机」は、特定の用途の机を指す言葉ではなく、脚に蓮華などの花を彫刻した机のことです。
(写真はいずれも参考資料。左は風俗博物館2002年下半期展示「女三の宮持仏開眼供養」より、花机にかけられた目染の覆い。右は風俗博物館2004年上半期展示「秋好中宮主催による季の御読経」より、行香の卓と散華の卓)

展示でも前机の上に載せられていた供養具については、法華八講ではありませんが、法成寺金堂供養を描いた『栄花物語』の記述が詳しいです。

仏の御前に螺鈿の花机、同じ螺鈿の高坏ども、黄金の仏器どもを据ゑつつたてまつらせたまへり。七宝をもて花を作り、仏供同じく七宝をもて飾りたてまつらせたまへり。火舎どもに色々の宝の香どもをたかせたまへれば、香薫じたり。(巻第十七「おむがく」)

高坏」「仏器」は、花束(けそく。餅や菓子を盛って仏前に供える台のこと)や閼伽器を指していると思われます。
火舎」は、上でご説明したとおりです。
閼伽は、「閼伽の具」という言葉が供養具の総称として使われるほど代表的な供養物で、仏前には必ず備えられます。
また、香は花・灯明と並ぶ基本的な供養物で、香を焚くことで場を清める意味があります。

一番上に載せた写真で言うと、机中央の経机寄りに置かれているのが火舎、その左右に3つずつ並んでいる器が閼伽器になります。
(閼伽器の横には杯のような形の器が左右に1つずつ置いてありますが、これはどういう仏具かわかりませんでした)
花束は木製の漆塗り、閼伽器や香炉は金銅製が多いようで、螺鈿や金、七宝で飾られた仏具の豪華さは如何ばかりかと思わされます。
098hakkou_13 (左の写真は参考資料として、2004年上半期展示「秋好中宮主催による季の御読経」より、仏前に供えられた閼伽器・花瓶・燈台)

このように、貴重な素材を惜しみなく注ぎ込んだ仏具類が本尊を取り囲み、堂を荘厳した様が、法華八講を含む平安時代の華麗な法会の装束だった訳です。
贅を尽くし、善美を尽くした法会の様相をご想像ください。

※掲載した写真のうち最初と最後の2枚は、いずれも博物館の許可を得て模型上方から撮影させていただいたものです。

【参考文献】
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
須田哲夫編『源氏物語の鑑賞と基礎知識13 末摘花』至文堂 2000年
中野幸一編『源氏物語の鑑賞と基礎知識10 賢木』至文堂 2000年
清水乞編『仏具辞典』新装版 東京堂出版 1999年
安東大隆「『栄華物語』にみえる法華八講」(「別府大学紀要」31号 1990年 pp.1-6)

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