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2007年6月 1日 (金)

『源氏物語の時代』

127ichijo この本の内容は、記事タイトルにもしましたメインの書名『源氏物語の時代』よりも、副書名の方により的確に示されていると思います。
「一条天皇と后たちのものがたり」――『源氏物語』が書かれた時代に帝位にあった一条天皇と、彼の2人の后(皇后/中宮)・藤原定子と藤原彰子が、本書の主人公です。

『源氏物語の時代 : 一条天皇と后たちのものがたり』
山本淳子著(朝日選書820) 朝日新聞社 2007年
ISBN:978-4-02-259920-9 税込定価1,365円

私は最初に、一条天皇らのことを“主人公”と書きました。
ですが、この本は小説ではありません。
著者(小説のような創作ではないので、あくまで“作者”ではなく“著者”になります)が「はじめに」で

本書がいざなう世界は、一見、歴史小説のそれに似ているかもしれません。しかし小説が本質的に小説家個人の想像力による創作物であるのに対し、本書は資料と学説のみに立脚し、あくまで〈伝えられてきた〉一条朝の再現を目指しています。

と宣言しているように、『日本紀略』や、『御堂関白記』『小右記』を初めとする同時代の貴族日記、『栄花物語』『大鏡』などの歴史物語、更には後世の説話などの資料を現代語に直した形で掲載しながら、エピソードをつなぎ合わせて一条天皇と彼を取り巻く人々の人生ドラマを再構築しています。
個々の出来事については、どの資料にどういう形で記され、そこからどのようなことが推測されるか、が丁寧に説明されています。
それでも、“歴史資料を読む”というような堅苦しさは全然なく、それこそ巧みな歴史小説のような読みやすさで一気に読めてしまいますので、「難しい本なんじゃないか」との心配は全く必要ありません。
天皇として、また1人の男性として、真面目に誠実に生きた一条天皇。
打てば響く才気と明るい性格で天皇の愛を独占しながらも、実家の没落に遭い逆境の中で儚く世を去った定子。
自己主張のない地味な存在から、次第に成長し天皇家と摂関家を見守り支える「賢后」へと脱皮した彰子。
資料から掬い上げられた彼らの人格と人生は、脚色などなくても読者の心を強く惹き付ける魅力にあふれています。

読み終えて私が何よりも強く感じたのは、それぞれの立場で愛と孤独に苦しんだのであろう3人への、切ないような愛おしさでした。
そして、
「一条、定子、彰子、それぞれの試練は、『源氏物語』の精神を形作った原点でもあったと、私は考えている」
との「あとがき」の言葉に、深い共感を覚えました。

文学作品は、作者の生きた時代の影響なしには成り立ち得ません。
ですが、これまで私が目にした紫式部や清少納言、一条天皇などの人物伝は、作家の想像・脚色が加わり時には史実に目をつぶった内容さえ含む歴史小説か、専門的な研究書かのどちらかでしかありませんでした。
地に足の着いた研究に立脚しつつ面白く読める、このような本は画期的だと思います。
中高生でも充分に読みこなせる易しい文章で書かれていますので、『源氏物語』や『枕草子』がお好きな方ならどなたでも、構えることなく気軽に読んでいただきたい1冊です。

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