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2007年9月15日 (土)

大原野

164oharano_1 現在の京都市西京区大原野の一帯は、長岡京遷都を機に開発された遊猟地でした。
桓武天皇から陽成天皇まで、大原野での遊猟の記録は多く見られ、その後も醍醐天皇が大原野に行幸して鷹狩を行っています。
(天皇が遊猟のために行幸することは、平安前期には盛んに行われ、「野行幸」と呼んで『新儀式』や『西宮記』に儀式次第の記述があります)
中でも、延長六[928]年十二月五日の醍醐天皇の大原野行幸は『李部王記』に詳しく遺されており、『源氏物語』行幸巻の冷泉帝の大原野行幸は、この史実が準拠されています。
山本登朗氏は、この行幸の場面で帝一行が野に着いて平張を設けた辺りを
「大原野地域の中でもやや小高い位置を占め、眺望にも恵まれた、小塩山(現在は「おじおやま」と呼ばれている)の麓の大原野神社周辺の地(現在の大原野南春日町)と考えることが、もっとも自然であろう」
と推定しています(『源氏物語の鑑賞と基礎知識30 行幸・藤袴』)。
(写真は、紅葉に彩られた大原野神社の社殿。2006年12月撮影)

大原野神社は、長岡京遷都に際して桓武天皇の皇后であった藤原乙牟漏が参詣の不便を解消するために創祀したと伝わり、藤原氏出身の后と深い関わりがありました。
大原野神社の例祭・大原野祭は宮廷儀式として位置づけられていて天皇・東宮と共に中宮も奉幣した他、儀式書には「中宮職供酒食」(『儀式』巻第一)「無氏后之時、氏一人祭之」(『西宮記』巻六)といった記述が見られ、祭の中で中宮が一定の役割を担っていたことがわかります。
また、皇太后・藤原順子を皮切りにしばしば后の行啓もありました。
『源氏物語』が書かれた一条朝にも、寛弘二[1005]年三月八日に中宮・藤原彰子が妹の尚侍・妍子と共に「如行幸時」(『小右記』)「如行幸儀式」(『御堂関白記』)と記されるほどの盛大さで行啓していますし、『古今和歌集』巻第十七や『伊勢物語』第七十六段に収められている

大原や小塩の山もけふこそは神代のことも思ひいづらめ

の歌は、このとき東宮妃であった藤原高子の大原野神社参詣に際して贈った在原業平の詠歌です。

165oharano_2 上記の業平の歌や、『源氏物語』行幸巻での冷泉帝と光源氏の贈答歌

雪深き小塩山にたつ雉の古き跡をも今日は尋ねよ
小塩山深雪積もれる松原に今日ばかりなる跡やなからむ

に詠み込まれている小塩山は、先に引用した山本氏の記述にもあったとおり、大原野神社がちょうど麓で、2kmほど西へ登っていくと標高642mの山頂になります。
現在はハイキングコースとして、また中腹に建つ金蔵寺が紅葉の名所として親しまれており、頂上はこの地に散骨されたと伝わる淳和天皇の御陵となっています。
平安時代には大原野神社と関わって、藤原氏の繁栄を祝い祈念する歌に多く詠まれてきた歌枕です。
また『紫式部集』には、

  暦に初雪降ると書きたる日、目に近き日野岳といふ山の雪、いと深う見やらるれば
ここにかく日野の杉むら埋む雪小塩の松に今日やまがへる

と、越前の日野岳を見ながら小塩山に思いを馳せた歌が収められており、紫式部もあるいは雪の大原野を見たことがあったのではないかとも想像できます。
(写真は大原野神社付近から見た、小塩山を含む西山の山並み。2006年12月撮影)

尚、『源氏物語』とは直接関わりませんが、大原野には在原業平ゆかりの十輪寺や西行桜で有名な勝持寺もあり、少々交通の便は悪いものの、平安時代がお好きな方にとっては散策のし甲斐がある地域だと思います。

【Data】
大原野神社
 住所:京都市西京区大原野南春日町1152
 交通:阪急電鉄京都線東向日駅またはJR向日町駅より阪急バス「南春日町」下車徒歩10分
 拝観:無料
 tel.:075-331-0014
小塩山
 住所:京都市西京区大原野石作町
 交通:阪急バス「南春日町」下車徒歩約1時間

【参考文献】
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
阿部猛, 義江明子, 相曽貴志編『平安時代儀式年中行事事典』東京堂出版 2003年
久保木哲夫編集『源氏物語の鑑賞と基礎知識30 行幸・藤袴』至文堂 2003年
久保田淳, 馬場あき子編『歌ことば歌枕大辞典』角川書店 1999年
平凡社[編]『京都市の地名』(日本歴史地名大系27)平凡社 1979年
東京大学史料編纂所作成「大日本史料総合データベース
大原野神社(公式Webサイト)

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