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2008年3月 9日 (日)

御帳台

184michodai_1_3 185michodai_2_2 御帳台は貴人の休寝に用いられた調度で、現代風に言えば天蓋付きのベッドです。
寝具をどかして茵を敷き、昼の御座としても使われました。
『類聚雑要抄』『満佐須計装束抄』には、いずれも母屋に据える調度のひとつとして挙げられています。

御帳台の構造や室礼は、上に挙げた二書に非常に詳しく書かれています。
それらの記述に沿ってご紹介しますと、まず、板敷の上に浜床(はまゆか)と呼ばれる黒塗りの台を据え、その上に土敷(つちしき)と呼ばれる繧繝縁の畳二帖を北南に敷きます。
(二書とも、浜床を置くのは后などの御帳台のみとしていますが、『うつほ物語』楼の上上巻の「浜床をのみぞ、いぬ宮の御料は、ささやかにせさせたまへる」との描写からは俊蔭女といぬ宮の御帳台に浜床があったと読める他、『源氏物語』でも后ではない女君の寝所で「(ゆか)」という表現が出てきますし(空蝉巻・蛍巻)、国宝『源氏物語絵巻』柏木(一)には女三の宮の御帳台に浜床がはっきりと描かれています。
『源氏物語図典』「浜床」の項によると
「本来、帳台には、浜床があったが、後に省かれるようになったものかとされる」
とのことで、『類聚雑要抄』『満佐須計装束抄』の成立時期は『源氏物語』の書かれた時代より150年以上後であることも、一方では考慮する必要があるようです)
次に、土敷の四隅にL字型の土居(つちい)を据え、土居の角毎に1本ずつ、合計12本の柱を立てます。
その上に鴨居を置き、漆塗りの枠に白い絹を張った天井を乗せます。
それから、四隅には四幅の帷子を、四幅の帷子の間の四方には五幅の帷子を掛け、上部に帽額(もこう)を引きます。
186michodai_3内部には四尺几帳を三本、南・東・西に立て(したがって北側が出入り口になります)、三方の五幅の帷子を几帳の横木の高さに合わせて巻き上げます。
土敷の上には表筵(うわむしろ)や地鋪を敷き、南を枕にして衾を置きます。
『満佐須計装束抄』には、枕の左右に枕几帳と呼ぶ小さな几帳を立てることが記されていますが、『類聚雑要抄』では、枕几帳は普通は用いず聟娶のときに立てるとしています。
更に魔除けとして、枕のある南側の柱には犀の角を、反対の北側の柱には鏡を、それぞれ掛けます。
帝・后の御帳台の場合は、前に鎮子の獅子・狛犬が置かれます。
『枕草子』第二六三段で里邸・二条の宮の定子中宮の御座について「御しつらひ、獅子、狛犬など」と記しているのは、この御帳台の獅子・狛犬のことです。

以上で、御帳台の室礼は完成となります。

187michodai_4 帷子は夏冬の衣更えで掛け替えました。
『類聚雑要抄』では、冬は練平絹、夏は生平絹で、いずれも白泥で「野条秋草等」を描くとしています。
『源氏物語』の中でも、明石巻や総角巻に御帳台の帷子の衣更えのことが記されています。
また、出産時には調度や衣類を白一色にすることが知られていますが、御帳台も白木でつくり白い帷子を掛けたものに替えました。
『紫式部日記』にはご存知のとおり彰子中宮の出産が詳述されており、「白き御帳に移らせたまふ」との記述をはじめ、御帳台の周りに集まった人々の心配や動揺、泣き笑いが活写されています。

『源氏物語』では、御帳台はほとんど「御帳」と記されます。
用例を眺めると、若紫巻や葵巻など、結婚を象徴するように御帳台が点描されている例が散見されます。
中でも特に意味深長に思われるのが、荒木孝子氏「調度」(『平安時代の信仰と生活』所収)も指摘する女三の宮にまつわる御帳台の描写です。
裳着に際して朱雀院がせめてもの箔付けにと「御帳、御几帳よりはじめて、ここの綾錦混ぜさせたまはず、唐土の后の飾りを思しやりて」(若菜上巻)美々しく調えられ、降嫁にあたっては「この院にも、御心まうけ世の常ならず。若菜参りし西の放出に御帳立てて」(同巻)と源氏が心を砕いて準備した上に「かの院よりも御調度など運ばる」(同巻)と畳み掛けられます。
更に、小侍従が柏木を「御帳の東面の御座の端」(若菜下巻)に導いたことが悲劇を招き、父の手で出家を遂げることになる朱雀院との対面も「御帳の前」(柏木巻)でした。
そして最後に女三の宮の御帳台が登場するのは、出家した宮の持仏開眼供養の場面で「夜の御帳の帷を、四面ながら上げて」(鈴虫巻)仏像が安置された状態なのです。
父院が幸せな結婚を願って用意した御帳台が、若くして世を捨てた宮の持仏の御座になるという結末は、なんとも憐れでなりません。

尚、風俗博物館の実物大展示室には『類聚雑要抄』の記述に基づいて内部まで細密に再現した御帳台があり、外からは勿論、中に入って見学することもできるようになっていますので、ご来館の際は1/4模型の展示だけでなくこちらもお見逃しなく。

記事中の写真は、左上から順に以下のとおりです。

  • 2005年11~12月に催された時代装束体験イベント「京の家づと」で設置された実物大の御帳台(浜床なし)
  • 2005年上半期風俗博物館展示「三日夜の餅の儀(夕霧と雲居の雁の結婚)」より、御帳台(浜床あり)
  • 京都御所清涼殿の御帳台(2005年11月撮影)
  • 2006年3~4月に開催された風俗博物館出張展示「六条院へ出かけよう」より、白い御帳台の中で出産に備える女三の宮と介添えの女房

【参考文献】
小町谷照彦編『[必携]源氏物語を読むための基礎百科』(別冊国文学No.56)學燈社 2003年
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
山中裕, 鈴木一雄編『平安時代の信仰と生活』(平安時代の文学と生活)至文堂 1994年
源氏物語の語彙検索(KWIC)
古典総合研究所作成「語彙検索

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