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2008年10月11日 (土)

唐車

207karaguruma_1 平安貴族の一般的な乗り物は牛車でしたが、一口に「牛車」「」と言ってもさまざまな種類がありました。
その中で唐車は、牛車の中では最も格式が高く、輩輿(れんよ。駕輿丁が轅を肩に担ぐ種類の輿)に次ぐ位置づけにありました。
輩輿のうち、鳳輦は天皇専用、葱花輦は帝・后・斎王のみ乗ることができましたが、対する唐車はそうした身分の人々に加えて、上皇・女院・東宮・親王・摂関も乗用が可能でした。
『栄花物語』で、禎子内親王の裳着のために内親王とその母・皇太后宮妍子が枇杷殿から土御門殿へ渡御する際、「大宮は御輿にておはしますべけれど、一品宮の異に奉らんが便なかるべければ、唐の御車にておはします」(巻第十九「御裳ぎ」)と記されているのは、内親王に許される乗り物の格式を明確に示しています。
また『枕草子』には、積善寺供養に向かう東三条女院詮子一行の車列について「一の御車は唐車なり」(第二六三段「関白殿、二月二十一日に」)と記されており、詮子が唐車を使ったことがわかります。

208karaguruma_2唐車は、格式が高いと同時に最も大きな車でもあり、時代は平安時代から大幅に下りますが『輿車図考附図』(松平定信編 文化元[1804]年成立)を参照すると、牛車の傍らに付き添う従者の烏帽子の高さよりも大きく車輪が描かれており、他の牛車に比べて明らかに大型であることがわかります。
『栄花物語』巻第十七「おむがく」の中には、法成寺金堂落成供養の後に太皇太后彰子をはじめとする后妃・内親王総勢5人(『権記』逸文に従えば倫子も加わって6人)が唐車に同乗して諸堂を見て回った記述があり、「通常4人乗りの牛車に、女性ばかりとはいえあの裾が長く嵩張る衣裳を着込んで5・6人も乗ることができたのか?!」と驚いたのですが、これも大型の唐車なればこそ可能なことだったのかもしれません。

209karaguruma_3「唐車」という名称は屋根が唐破風の形をしていることに由来し、「唐廂車」とも呼びました。
『輿車図考』から唐車の形状をまとめると、まず屋根には檳榔の葉で葺き、廂と屋形の腰にも檳榔の房を垂らします。
檳榔はヤシ科の植物で、九州や沖縄などの南国でしか採れない稀少なものだったため、檳榔の葉を葺くことはその車の権威を誇示する意味もあったのではないかと思われます。
立板(屋形の側面の板)と袖(立板の端)には彩色を施し、簾は蘇芳で染め錦の縁を付けたもの、下簾は唐草や唐花・唐鳥を刺繍した蘇芳の浮線綾を掛けます。
鞦(しりがい。牛の胸から尻にかけて取り付けて車の轅を固定させる緒)は房がある場合とない場合の両方があったようです。
綱には唐綾または白妙を用います。
尚、『源氏物語図典』には
「ほかの車の乗降には榻(しじ)を用いるが、この車は桟(はしたて)という梯子(はしご)を用いた」
と書いてありますが、私が調べた限りでは桟に関する記述は見つからず、『輿車図考附図』の唐車の図には榻を持つ牛飼が描かれており、また『桃華蘂葉』にも「御榻[鷺足入角、有總黄金物]」(一車事)との記述があって、その根拠がよくわかりませんでした。
車の大きさを考えると、踏み台ではなく梯子を使った方が確かに合理的な気はしますが。

『源氏物語』の中で、はっきりと唐車だと断定できる車の例はありません。
車の種類がわかるのは、男主人公達が人目を忍ぶ微行で身をやつしたときの「網代車」(須磨巻・若菜上巻・橋姫巻)と、女二の宮が三条宮に渡御する場面で宮が乗った「庇の御車」(宿木巻)くらいです。
風俗博物館展示では、朱雀院鍾愛の内親王の権威を示す乗り物として、女三の宮降嫁の場面の具現で登場しました。
写真はすべて、2006年上半期展示「女三の宮六條院降嫁」で撮影したものです。

【参考文献】
古代学協会, 古代学研究所編『平安時代史事典 CD-ROM版』角川学芸出版 2006年
小町谷照彦編『必携源氏物語を読むための基礎百科』(別冊國文學No.56)學燈社 2003年
秋山虔, 小町谷照彦編『源氏物語図典』小学館 1997年
山中裕, 鈴木一雄編『平安時代の信仰と生活』(平安時代の文学と生活)至文堂 1994年
『輿車圖 ; 輿車圖考. 舞楽圖説. 三條家奥向恒例年中行事』(故實叢書第36巻)改訂増補版 明治図書出版 1993年
神宮司廳[編]『古事類苑 器用部二』普及版 古事類苑刊行会 1934年

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