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2009年6月27日 (土)

『御堂関白記』を読みこなすために

摂関政治の頂点を極め、紫式部の雇い主として『源氏物語』執筆を支援した藤原道長。
『御堂関白記』は、その道長が書き残した日記です。
道長自筆の原本が陽明文庫に現存する他、子孫が書き写した写本や抄出本などにより、長徳元[995]年~治安元[1021]年の分が1000年後の現代まで伝わっています。
男性貴族が著した日記は、『源氏物語』が「女のまねぶべきことにしあらねば」(賢木巻)などとして表向きは語らないながらも、物語の随所に織り込んでいる宮廷政治の世界を知るための貴重な資料。
しかも、『源氏物語』作者と同時代の実質的な最高権力者であり、作者本人とも浅からぬ関わりがあった人物の日記となれば、その重要性は改めて申し上げるまでもないかと思います。
その一方で、これまでは他の貴族日記と同様、漢文で書かれていることがネックになり、白文の漢文を読みこなす素養のない人にはなかなか手を出せない文献でした。
ですが、嬉しいことに今年になって現代語訳の刊行が始まり、研究者ならぬ一般の歴史・文学愛好家も悪戦苦闘せずに『御堂関白記』を読めるようになりました。
そこで今回は、『御堂関白記』を読んでみよう!と思い立った方向けに、用途に応じた資料をまとめてご紹介いたします。

まずは、この記事を書くきっかけともなった本から。

『藤原道長「御堂関白記」 : 全現代語訳』全3巻(講談社学術文庫)
倉本一宏訳 講談社 2009年5月~刊行中 各1,418円(税込)

手軽な文庫本での刊行で、上中下の3分冊構成。
今のところ刊行済みなのは上巻と中巻で、下巻も7月中旬には発売されるようです。
原文との対訳ではなく訳文のみが収録されており、巻末に簡単な用語解説と日記に登場する人物の注、年譜、系図、地図類が付いています。
人名は『平安時代史事典』(角川書店 1994年)の読みに準拠している(=ほぼすべて訓読み)ため、ちょっと違和感を覚えるかもしれませんが、本文に定期的にルビを振ってあるので、本文から辿る分には五十音順の人物注を参照するのに不便を感じることはさほどないと思います。
「とりあえずどんなことが書かれているのか読んでみたい」「敦成親王が生まれた寛弘五年九月十一日はどんな風に書かれているんだろう?」などの興味を気軽に満たしたいときや、「原文を読んでみたけど、この部分の意味がわからない」といったときにお薦めです。

もうちょっと本格的に原文にチャレンジするなら、「大日本古記録」が一番アクセスしやすいかと思います。

『御堂関白記』全3巻(大日本古記録)
東京大学史料編纂所編纂 岩波書店 1952-1954年

本としては絶版になってしまっていますが、東京大学史料編纂所の古記録フルテキストデータベースに収録されており、インターネット上で検索・閲覧ができます。
長所は、自宅などから無料で読めることと、日付や本文中の単語で検索できること。
読みたい記事の日付がわかっているときは一発で該当の本文に飛べますし、年中行事の記録を集めたときなどには全文検索機能が威力を発揮しました。
ただし、書籍版の1ページ単位で画像ファイルになっているので、通読には向きません。
通して読むなら古書店に頼るか図書館で借りることになりますが、「大日本古記録」は公共図書館でも比較的多く所蔵されている印象がありますので、お住まいの地域の図書館で探してみてください。

更に踏み込んで、日記に書かれた事柄の背景や内容の意味などを深く掘り下げて理解したい方は、註釈付きのこちらをどうぞ。

『御堂関白記全註釈』
山中裕編 国書刊行会→高科書店→思文閣出版 1985年12月~刊行中

こちらは完全に専門書ですので個人で購入するのはなかなか難しいかと思いますが(値段はまちまちですが、1万円以上する巻もあります…)、「全註釈」のタイトルどおり非常に詳細な註が付いており、「労作」という他に言葉が見つからない、すごい本です。
中身は、1ヶ月単位で訓点を付与した本文と書き下し文、註釈がまとめられており、1年分で1冊になっています。
多い月では、註釈の箇所は100ヶ所以上!
公共図書館で所蔵しているところは少ないかもしれませんが、『御堂関白記』を詳しく知りたいと思ったら見ておくべき資料だと思います。
刊行は必ずしも年代順ではなく、現在のところ寛弘元[1006]年~寛仁二[1018]年まで、抜けている年もあるので合計14年分が刊行済みとなっています。

最後に、「道長の自筆が見たい!」という方向けに影印本もご紹介しておきましょう。

『御堂関白記』全5巻(陽明叢書. 記録文書篇 ; 第1輯)
陽明文庫編 思文閣出版 1983-1984年

「影印本」というのは、原本を撮影した写真を印刷した本のこと。
写真なので、筆跡は勿論のこと、紙の汚れや虫食いの穴まで見ることができます。
『御堂関白記』自筆本は展覧会などに出陳される機会も多いので、そういった折に本物を見ることもできますが、より手っ取り早く道長の筆跡に触れることができる影印本の存在も知っておくと、何かのときには役に立つと思います。

かつてはごく限られた専門家だけのものだった『御堂関白記』の世界に、こんなにもいろいろな角度から触れられるようになったのは、本当にありがたいことです。
皆様も、目的と用途に合わせてこれらの本を活用してみてください。

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